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15.引越しは決まったものの・・・

 引越し先は決まったものの、ナナンはいまだに一日中家にいることはなかった。やかましく鳴くのも相変わらずだった。窓を少し開けておくと、1〜2時間はおとなしく寝ているが、窓を閉めれば落ち着きがなくなるし、必ず外に帰っていた。

 こんな調子で、新しい家に連れて行っても大丈夫だろうか?と思ったら不安になってきた。にゃーにゃーうるさく鳴く声を聞いていたら、以前動物病院に連れて行ったときの、あのものすごい鳴き声を思い出してしまった。

 そうだ、このマンションから連れ出すにはあれをもう一度やらなければならないんだ。それに、新しい環境に慣れてくれなくて鳴きやまなかったらどうしよう?いくら大家さんが許可してくれたからといってもマンション自体がペット可なわけじゃないんだから、鳴き声がうるさくて今度こそ苦情がくるかもしれない。

 こう考え出すと、どんどんどんどん不安になってしまった。そしてついに、夜眠れなくなってしまったのだ。

 眠ろうとするとあれこれ考えてしまい、胃がもやもやして気持ち悪いような痛いような感覚がした。すると今度はそれが気になって眠れない。夜がものすごく長く感じられて、暗闇が怖かった。空が少し明るくなる頃、ようやく眠くなってきて少し眠れた。でも寝たような気がしなかった。


 「不眠症」は、結局1週間続いた。あまりに苦しくて、もう引越しなんてやめよう!と思ってしまった。新居の本契約はまだ済んでいなかったので、今ならまだ引き返せるかもしれない、と考えてJKに「キャンセルしよう!」と話した。

 すると「実は、猫と暮らすの結構楽しみなんだよ。今まで動物飼ったことなかったから」と、驚くようなことをJKは言った。最初はあんなに反対していたのに・・・。嬉しい反面、よけいに混乱してしまった。それに、不安で落ち着かない気持ちはどうしても消えない。私はさらに「今のままエサをあげ続けたほうが、ナナンにとっても幸せなんじゃないの?今まで外で自由に生きていたのに、無理に連れて行って家の中に閉じ込めるのはかわいそうなのかもしれないよ。」と訴えた。

 それを聞いてJKは決定的なことを言った。「だったらもうエサをあげるのもやめなきゃダメだよ。今の状態を続けたら、いつか見つかって怒られるときがくる。そのときになって追い出されるのは、俺は嫌だね。だから、引っ越して連れて行くか、このままここに残ってナナンを見捨てるか、2つに1つだよ」

 究極の選択だった。私の両親を含め、周りの人たちは「今のままエサをあげればいいじゃん」と言う人が多かった。私も、10年は生きるであろう猫の一生をまともに世話するより、できることなら責任のない立場でいるほうが楽だろう、と頭のどこかで考えていた。

 でもJKの言うことは間違っていない。少なくとも、今の私たちの立場ではトラブルになりかねないのだ。それに、ここに残ってナナンを無視することは至難の業だ。というか、それができるくらいなら最初から引越しなんか考えていない。連れて行って慣らすのも大変そうだけど、どのみち苦労するなら楽しそうなほうを、すなわち猫と暮らすほうを選ぼうと思った。

 JKは「ノラ猫でいるほうが不幸せだと思ったんでしょ。だったらそれでいいじゃん。他人が見てどう思おうが、関係ないよ。ここまできたら、最後まで面倒見よう」と言った。


 とはいえ、ノラ猫を室内飼いにする方法がさっぱりわからなかったので、ノラ猫系サイトの掲示板で質問してみた。そうしたらノラ猫を飼い猫にした経験のある人が何人もいて、すぐレスをくれた。「最初はケージに入れて、だんだん慣らしていった」とか、「とにかく最初は徹底して外から遮断して、外の世界を忘れさせた」といった体験談を教えてもらった。そしてみんなが「時間はかかっても必ず家の中に慣らすことはできる、大丈夫」と答えてくれていた。

 それから、JKも知り合いのAマキさんから「猫の記憶力は1週間くらいしか持続しない」という「朗報」を聞いてきた。Aマキさんも猫を何匹か飼っている人で、「猫はすぐ(昔のことを忘れて)慣れるから、引越しは大丈夫だよ」と言ってくれたそうだ。

 これだけ猫飼い経験者が口をそろえて「大丈夫」と言うので、ようやくひと安心した。

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